映でもあり得る。
憑かれたのだ。私の方が負けである。
そもそもの出だしがいけなかった。杉幸の二階をかりて座談会を催した、その時からのことだ。
民間宗教と言うか、異端宗教と言うか、さまざまな信仰が発生し、神がかりの教祖のまわりに信者が集まりつつあった頃で、私の雑誌では、心霊科学研究の大家と文学者と博識者との三人を招いて、なるべく通俗的な面白い鼎談会を催した。速記がすんでから、なお酒を飲みながら、雑談はしぜんに怪奇な方面に向っていった。ばかばかしい話や不思議な話がたくさん出た。
「どうにも合点のゆかないことがあるものです。」と私の同僚の黒田が話した。
彼は或る夜、したたか酒を飲んで、中央線の終電車で帰途についた。もうバスがなくなっていたので、駅から三キロばかりの道を歩いた。中程に交番があって、そこまでは無事に行けたが、それから先が、いくら歩いても果しなくなった。一本道ではないが、時折歩くこともあるので、迷うわけはないのに、いくら歩いても家に着かない。酒の酔いもさめかけてきて、ただやたらに歩いた。それでも、だんだん家に遠ざかるような気持ちさえして、無限の遠いところに家はあるようだ。道
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