のは、体力をも脳力をも消耗するだけで、何等の栄養にもならない。そのことに気付いた時は既に遅く、飲酒は単なる習癖を越えて中毒に移行しかかっているように自分にも感ぜられた。それでも、自分の才能に対する自信は失わなかった。なるべくカストリをやめて、清酒や洋酒を飲むことにした。つまり、或る種のアルコールを他の種のアルコールに変えたのである。それから、夜更しの場合にはヒロポンを用い、早寝の場合にはアドルムを用いて、頭脳の調節をはかろうとした。
それにしても、私の創造力の涸渇は蔽うべくもなかった。危機を脱するために、幾度か、遂には毎日のように、節酒の決心をした。その決心がまた逆に、毎日酒を飲むという結果になった。もう今日限り、ということはつまり、今日だけは無条件に許されることに外ならない。そして今日という日は、いつもいつも常に存在する。雑誌の給料や原稿料や編輯費が或る程度自由になったこともいけないが、そうでなくても、酒代なんていうものは、他の費用とちがって、少しく無理をすればどうにでも捻出できる。要するに、今日という日のあることがいけないのだ。汝の享楽の如何に卑賤なることよ、とニーチェ流に叫んで
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