がった。

 山の上方は、火山岩に火山灰だ。靴では厄介なのである。秋子は宿のお上さんに頼んで、古足袋を二つ、私のと彼女のとを手に入れてき、紐つきの草履を、履き替えの分まで用意した。
 登山は夜間にするのが定法とされている。噴火口の底のぐらぐら沸き立ってる赤熱の熔岩のさまが、昼間はよく分らず、夜明け前の闇中ではよく見えるのである。その上、日の出の美観も楽しめるのである。
 毎日のように登山客があった。峯の茶屋まで自動車で行く人があったので、私達もそれに便乗させて貰った。それから先は、他の人々をやり過して、二人でゆっくり登った。私はズボンの裾を折り上げて、靴下の上に古足袋をはき、秋子はスカートの裾を気にしながら、ストッキングの上に古足袋をはき、どちらも草履を紐でゆわえている。滑稽な身なりだ。
 登山路は急だが、ゆっくり歩けば難儀はない。林間を過ぎ、灌木地帯を過ぎると、所々に草むらがあるだけの不毛の地だ。はっきりした路はないが、ただ一つの峯で、真直に登ってゆけばよい。時々立ち止って休む。地鳴りのような響きが遠くかすかに聞えてくると、意外に早く、頂上に出る。
 仄かに夜が明けかかっていた。中天
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