―僕たちはお互いに、愛し合っていますなどと、歯の浮くようなことを一度も誓い合ったことがない。これは現代式で甚だよろしい。然し、僕は君を本当に愛している。愛してはいるが、然し、恋してはいない。然し、恋愛はさめ易いが、愛情はなかなかさめないものだ。然し、愛情にも何かの支柱がいる。その支柱を探そう。然し、こう酒ばかり飲んでいては、二人とも駄目だ。少し真面目になろう。然し、真面目になりすぎてもいけない。子供のように遊ぶことが大切だ。子供のような純真さ……。
然し、然し、の連続で、何のことやら自分にも分らないのである。それでも、秋子はことごとく賛成してくれる。つまり、二人の間には、見解の相違とか意見の衝突とかは、聊かもないのだ。
私はやりきれなくなる。
「もうお酒は充分でしょう。」と秋子は言う。
こんどは、私の方がそれに従う。
「アドルムはやめましょうよ。」
彼女自身でもそれを服用してるかのような調子で言う。その気持ちは私にも分るし、私はそれに従う。だが、閨の中の彼女は全く消極的で、少しも能動的なところはない。ただぼってりした肉の温みだけだ。何等の技巧も知らないし、呼吸の乱れもなく、眉根
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