ある。秋子はてきぱきとすべてを処理する。これはうまいとかまずいとか、料理品のことまで私に教える。朝はビールを二本にして、昼食はぬきにすると、裁断を下してしまう。
 いったい、これはどういうことだろうかと、畏敬の念で私は彼女を見上げた。前髪の方は少しく縮らし、後ろを思いきりアップに取りあげて、襟足をくっきりと見せ、はでなお召の着物に伊達巻の姿で、膝をくずし加減に坐ってるところは、婀娜っぽい冷たさがあった。私には取りつく島がないような感じだ。両手を後頭部にあてがって寝ころんでいると、彼女はその眼眸をひたと私に据えたまま、しばらく時を置いて言う。
「寝ころんでいらっしゃると、ずいぶん、体がお長く見えるわ。」
 私はむっくり起きて、立ち上った。
「立ってる時と、どっちが長い?」
「やっぱり、寝ていらっしゃる方が、お長いわ。」
 なんとばかなことを、なんと真面目に言ってることか。私は頭をかきむしりたくなった。
「も少し酒を飲もう。飲ませてくれよ。」
 彼女を相手にしていると、やたらに酒が飲みたくなる。いつもそうだ。そして酔ってくると、こんどは私の方が、下らないことをべらべら饒舌りだすのである。―
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