ることもあるでしょうにね。」
お上さんの言うことが道理だと、私は思うのである。
「黒田さん、意気地がありませんわね。もっと、本気で、狐に憑かれなすったら、面白かったでしょう。」
秋子の言うことは痛快だと、私は思うのである。
「そうだ、僕だったら本気で憑かれてみせるね。君はどうだい。」
「あたしも憑かれてみせますわ。」
「じゃあ、僕が憑いてやろうか。」
「ええ、どうぞ。その代り、あたしもあなたに憑きますよ。」
お上さんも酒を飲んだ。
「狐や狸ならいいんですけれど、蛇に憑かれたら困りますね。」
蛇に憑かれた怪談が出てきた。女はだいたい怪談が好きなものだ。
そして私は怪談に酔い、酒に酔い、のびてしまった。炬燵を拵えて貰ってごろ寝をした。憑くぞ、憑くぞ。秋子と言い合っているうちに眠った。――その夜、私は秋子と抱き合ってキスした。
私は秋子を特別に好きではなかったが、嫌いでもなかった。色が白く、下ぶくれの顔立で、まあ十人並以上の容姿と言える。ただ、へんに気になるところがある。第一はその眼眸で、ちょっと白痴的なものを感じさせることさえある。それから、頭は悪くなく、はきはき判断をつけるが
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