ものは、音声のために低い地位へ蹴落される。
 そしてこの音声については、男性は別として、女性にあっては、美婦は多く悪声であり、醜婦は多く美声であって、顔の美と音声の美とはほぼ反比をなす。記録をとってみれば、例外は二十パーセントにすぎない。即ち八十パーセントまでは、音声の美と顔の美とは反比例する。――序ながら、他の調査によれば、教養の程度をぬきにして、単に筆蹟の巧拙だけから見る時、美婦は多く悪筆で、醜婦は多く美筆であって、その点右と同様の反比をなし、例外もほぼ二十パーセントにすぎないとかいう。
 音声も悪く、筆蹟も拙く、さて面のみで、何の美人ぞやというわけか。そしてこれがまた、音楽や美術の方面に於て、真の天才婦人に美人少く、くだっては、芸に秀でた名妓に美人少き所以でもあろうか。
      *
 或る若い女の告白に曰く――人の足音ほど面白いものはない。無関心な人の足音は、ただ音にすぎない。少しく関心をもつ人の足音は、その音につれて、膝のあたりまで眼に浮ぶ。少々愛する人の足音は、腰のあたりまで見えさせる。ほんとに愛する人の足音をきけば、その人の全身が眼に見える……。
 これを真実だとすれば
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