の中までも、じめじめとしみとおってくるような、しめっぽい濡れきった音なのである。
雨にも――雨に対しておかしな言葉だけれど――乾燥した音と濡れた音とがある。
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雨戸を閉める音は、種々雑多であるが、その両極瑞に、ガタガタ……ピシャリ……というのと、スー……コトリ……というのとある。これを解説すれば、力一杯にガタガタと押しやって、ピシャリとぶっつけるのが前者で、力をぬいて静にスーっと押して、頃合をはかってコトリとやめるのが後者である。
この二つの気合は、その人の時々の気分にもよるが、そういう例外を除いて、尋常な場合だけをとれば、異った二つの気質を、そしてなお二つの生活様式を暗示する。
雨戸を閉める音をきいていると、その人の日常の挙措動作や暮し方から、気立や性質までが想像される。
*
日常の対話で、音声の美醜は殆んど気付かれず、言葉の調子だけが主に感ぜられる。言葉の調子は表情や身振に直接関連しているが、音声は独立している故であろうか。
然るに、電話になると、言葉の調子の如何よりも、音声の美醜の方が、より多く感ぜられる。表情や身振の裏付のない言葉の調子その
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