屹度薄荷の匂の交ったやつですよ。」
彼は小鼻の横に皺を寄せて、うそうそと微笑んだ。
「それから子供の身体は、思ったよりも頑丈ですよ。まるまると肥っていても、妙に骨の節々ががっしりしているものです。ただ指の先と頬辺とだけは、餅のように柔かくつるつるしています。この骨の節々が太くて指先と頬辺とが柔かいほど、子供としての価値《ねうち》があるんです。骨組がひょろひょろしていて、頬がざらざらしてるのなんかは、全く駄目なんです。あなたはそう思いませんか。」
「そうかも知れません。」と、私はぼんやり答えた。「そして、その子供はどうしました。」
「その子供って……ああそうですか。翌朝帰してやりましたよ。私は保険会社に勤めているものですから、毎日出かけなくちゃなりません。子供を一人で一日留守さしとくわけにもゆきませんから、翌朝になると、根津様の中に連れていって、また今晩お出で、と云って放してやりますと、喜んで飛んで行きます。けれどもうそれからは、二度と姿を見せませんよ。変ですね。それでも私は平気です。他にいくらも子供はいますからね。時々私の家へ泊りに来てくれます。私はその時の用意に、絵本や玩具を沢山買
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