林檎
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)微笑《ほほえ》んでる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説2[#「2」はローマ数字、1−13−22]
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四月初旬の夜のことだった。汽車は北上川に沿って走っていた。その動揺と響きとに身を任せて、うとうとと居眠っていた私は、窓際にもたせた枕の空気の減ったせいか、妙に不安定な夢心地で、ぼんやりと薄眼を開いた。が、身を動かすのも大儀で、そのままじっとしていると、すぐ前の所に、淡い電燈の光を受けて、にこにこ微笑《ほほえ》んでる男の顔があった。おや、と思ってよく見ると、仙台で私が乗車した時から、其処に坐っていた男だった。たしかもう十二時も過ぎたこの夜更に、乗客は大抵うつらうつらとしてる中で、一人眠そうな顔もせず、腰掛の上に真直に坐って、にこにこ笑ってるのである。
変な奴だな、と私は思ったが、それと同時に、初めからそういう感じを受けたのを思い出した。仙台で私が乗込んできた時、前の腰掛には、その男と五十年
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