てるうちに、子供はもう眠くなったとみえて、妙に黙り込んで眼をしぱしぱさせます。私はすぐに布団を敷いてやりましたが、布団を敷いてるその最中に、子供はいきなりわっと泣き出しました。泣きながら、お母ちゃんの所へ行きたいと云うんです。私は小さな押入を開いて、その中の新らしい位牌をさしながら、お母ちゃんはあすこにいるから、お父ちゃんとおとなしくねんねするんだよ、としきりになだめすかしましたが、子供は頭を振って、猶ひどく泣き出すんです。しまいには表へ駈け出そうとします。私もあんなに弱ったことはありません。それでも子供はどうやら私の膝の上で、泣き寝入りに眠ってしまったものですから、私はそれを抱いて寝てやりました。あなたは子供の匂というものを御存じですか。」
 彼はしまりのない薄い唇をなお弛めて、一人でにやにや笑い初めた。
「甘酸っぱいような妙な匂ですよ。牛乳の腐りかけたのがありますね、あんな風な匂です。でも子供によって多少違いますね。その甘酸っぱいのに、汗の匂を交えたのもあるし、黴の匂を交えたのもあるし、薄荷の匂を交えたのもあるし、レモンの匂を交えたのもあって、いろいろです。向うに寝てる子供なんか、
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