! そうか、俺がお前にとって、他の人達と同じだということは、今ようやく分った。」
 之は最も効果的な表現である。他の人達と同視されることを憤慨するのは、如何なる直接的な自己主張よりも、一層強い自己主張になる。自分はこうだああだと如何に説き立てても、他の人達と同視されるのを憤慨することには遠く及ばない。他の人達と同様だということを否定するのが、最も強い自己主張になる。
 恋愛などの場合は、こうした手法が屡々用いられる。一人の女を愛している時、その女を如何に深く愛するかと説くよりも、他のあらゆる女に一顧も与えないことを説く方が、より強くその愛が表現される。さまざまな美しい女性にとり巻かれても、それらに一瞥も与えないことは、つまりそれらを凡て無視することは、ただ一人の女性を重視することになる。
 こういうのは、比較の問題ではない。絶対的な問題である。
 ドストエフスキーの「悪霊」の中にあったことだと記憶しているが、面白い対話がある。
 A――「吾々は馬鹿だな。」
 B――「どうして君は馬鹿なんだ。」
 A――「僕は馬鹿じゃないさ。」
 B――「僕だって、君よりは馬鹿じゃないよ。」
 言葉は違
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