った。正夫はだんだん奥深く進んで行った。針葉樹の立交っているところに出た。然しその葉にも、美しい露の玉はあまりなかった。正夫はなお進んでいった。土地が次第に低く、谷間らしいところに出た。そこで森が切れていて、草地があり、その先は濃霧にとざされていた。
何か怪しい声がした。幾つもした。ちょっと静まって、また一度に聞えてきた。向うの、森の外れの木の上から来るらしかった。正夫は用心しいしい近よっていった。濃い霧のなかに、椎の木らしい茂みの中に、何か動いている。声を立てている。見ると、二三匹の猿だった。小さいのがないており、大きいのが頭をかいている。その向うにもまたいた。上の方にもいた。小さいのが枝から枝へ飛び移っており、大きいのが時々それを追っかけている。
正夫はそこに屈んで、じっと眺めていた。それから、くすっと笑った。彼は洋服を着ていた。傍の柴の小枝を折り取って、それを背中のバンドにさし、襟にさした。そして四つ匐いになって、徐々に猿の方へ近づいていった。柴の小枝と、四つ匐いの姿とのために、猿は正夫に気づかないらしい。正夫は椎の木の下まで行くことが出来た。すぐ上で、多くの猿がないたり、飛
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