びまわったりしている。そのうちに小猿を一つ、正夫は生捕るつもりなのだ。だがまだ届きそうもない。椎の木の大きな幹に登れるかどうか、考えてみたが……その時、ふいに、正夫の肩にとびついたものがある。飛びつくと同時に、鋭い声をたてて木にかけ登り、それが合図か、多くの猿が一時になきたて、風が吹くような音を立てて、枝から枝へ、遠くに逃げていってしまった。正夫はそこへ一人ぽかんとしていた。
「ばかな奴だよ、逃げなくってもいいじゃないか。」と正夫はいった。
「君の方がばかさ、四つん匐いになったりして。平気で歩いていけばいいんだ。」とチビはいった。
「そんなことしたら、なお逃げちまうよ。」
「逃げやしないよ。初めから人間だと分っていれば、案外向うは平気なんだ。それを、四つん匐いなんかになってるんで、飛びついてみて、びっくりしたんだよ。」
 正夫は暫く考えていたが、突然云った。
「ああ分ったよ。」
「何が?」
「君はいつもそんな考え方ばかりしているんだ。」
「…………」
「君が行ったって、猿は逃げやしないさ。だからそんなことを云うんだ。けれど、僕は君とは違うんだ。」
「そりゃあ違うさ。」
「いやそうじゃな
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