かな傲然たる態度を取っていた。
 然しこの、三島さんの話もグループの話も、甚だ曖昧な漠然としたもので、正夫にもよくは分っていなかった。だがその頃、南さんはよく酒をのみ歩き、相当に放埓な生活をし、勉強などは殆んどせず、家にいる時は、寝ころんで何か考えてるかと思うと、いつのまにかうとうと眠ってるのだった。昼も夜もよく眠った。起きてる時は、何か落着きがなく、苛ら苛らして、二階の書斎に上ったり、庭におりたり、そして膝頭ががくがくし、手先が震え、眼付が沈んでいた。夜遅く外を歩き廻ることがよくあった。
 或る夜、正夫はなんだか不安な気持で眼を覚した。何かの気配が自分の上におっかぶさってくるようだった。ぼんやり薄目をあいてみると、二燭光の電燈で、室の中が深々とぼやけている。その中に、大きな姿が自分の側にあった。その威圧に、身動きも出来なかったが、先方も不動のままだった。きちっと合わせた着物の襟、角ばった肩、斜にさし出されてる首、そして見覚えのある蒼ざめた顔が、顔全体が、こちらを覗きこんでいる。下から見上げると、接の骨と鼻の穴がいやに大きく、髪の毛が後ろに長々となびいてるような感じだ。正夫は大きく眼を
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