刻みこまれた。両方とも画かれたものに違いなかった。その他のところは、眼も鼻も全体の顔立も正夫は覚えていない。――その三島さんの伯父さんとかがひどく憤慨してるのだと、山根のおばさんが南さんに話していた。ほんとにそんな挨拶をなすったのですか、というのだった。――私は彼女に、そのつど、十円とか二十円とか渡しておいた。こんどは何々を買おうといって、いつも喜んで貰っていったのだ。私はカフェーの女給なんかとそんなことがあっても、一文も出したことはないのだ。彼女にだけは金を払った。それで文句があるのですか、よく考えて貰いたい。――そんな挨拶をなすったのですかと、山根さんは穏かに聞いてるのだった。――その三島さんの伯父さんが、南さんと二階の室で一時間ばかり対談して、静に帰っていった。南さんは普通の訪問客を送り出す時と同様、平然としてそして鄭重だった。山根さんも取り澄していた。――其後、木原さんが来た時、山根さんはひどく怒ったらしかった。南さんは相当高利の金を千円かりて、それを三島さんの伯父さんに贈り、木原さんがその間にたって万事まるく納めたというのだ。これはゆすられたのではない、相手方に対する極度の蔑
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