いようなものが、あるんだよ。君には分らないだけだ。」
 チビはまた耳をかいた。
「今だってあるよ。」
「何が?」
「そんなことが。こないだも……。」
 すぐ向うの丘の、裾を廻ってる街道でのことだった。夕方近くで、うすく靄がたれこめてる中に、まだ明るみが浮き上ってる、へんに佗びしい頃だった。白い街道を、一台のトラックが走って来た。初めは小さく、兜虫のようにのろのろと、やがて大きくなり、早くなって、風のようにさっと通りすぎ、同時にごーっと音がし、白い埃をまきあげた。その時、麦か米か粉かの大きな袋が堆くつんである、その上から、人間が一つ、軽くふわりところがり落ち、それがこんどは重々しく地面にはねあがり、そしてぐったりとなった。トラックは走り去り、落ちた人間だけがそこに長くのびている。
 あたりには誰もいなかった。何の声もなかった。やがてどこからか、子供が二三人出て来た。大人も出てきた。地面からわき出たようだ。地面からわきだして、そこに集ってきた。そしてまるく立並んだ。正夫もその中にはいった。そこに落し忘れられてるのは、襯衣の上に腹掛をし、地下足袋をはいた男で、仰向けに、手足を伸し、眼をとじ、
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