チビと呼んでいる。もう馴れっこになっているし、一種の親しみさえ持っているので、別に驚きはしない。それに丁度、神話のことを考えていたところだ。神々や巨人や怪物や、いろんな妖精。チビだって、謂わば、神話の中のような者だ。
「久しぶりだね。」とチビは云った。
「うん。」と正夫は答えた。
「何をしてるんだい。」
「何にもしてやしないよ。」
「じゃあ、退屈だろう。」
「退屈だから、何にもしていないんだよ。」
「何にもしないから、退屈するんだ。」
「ちがうよ。退屈だから何にもしないのさ。」
「同じじゃないか。」
「ちがうよ。」
チビは耳をかいた。困った時の癖だ。そして暫く黙っていたが、正夫の目の中を覗きこんできた。
「じゃあ、何を考えていたんだい。」
「いろんなことだよ。」
「どんなこと?」
「神だの、巨人だの、人魚だの……。」
「ああ、大昔の話か。あんなこと、みんな嘘っぱちだろう。」
「嘘じゃないよ。」
「本当のことだと思ってるのか。」
「本当でもないさ。」
「そんなら嘘じゃないか。」
「本当でも嘘でも、どっちでもないんだ。」
「では何だい。」
「何だか知らないが、本当でも嘘でも、どっちでもな
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