声がとても好きだ。こっちに来る前、田舎に行ってた時、毎晩きいた。真暗な夜の田圃の中って、すごいよ。でもその鳥が鳴いてると、安心するんだ。どんな真暗な夜出ていっても、どこかで、ほうほう……鳴いてるんだ。」
正夫は田舎に半月ばかり行ってた間に、殆んど毎晩、川漁にいった。夜の川ほど神秘に満ちてるものはない。浅瀬があり、深い淵があり、洞窟があり、泥中のもの、陸上のもの、水中のもの、更に闇夜のものなど、あらゆるものがうろついているのである。
大きな河の浅瀬でする投網は、さほど面白くなかった。流し鈎の釣りもさほど面白くなかった。刃物での魚切りは少し変っているが、もう稲がのびすぎていた。
何よりも心躍るのは、ウケをつけておいて魚をとることだ。竹を細くわったのを煽んで、円い箍のまわりにとりつけ、先端はせばまるようにし、ねじりながら縄で結えられるようになっている。そして頭部の、いわば竹の簀子の円筒の中に、も一つ竹の簀子の漏斗形がとりつけてある。魚がその漏斗形のところから中にはいると、そこから逆に外に出ることはむずかしく、他に出口はなく、全くその中に囚えられてしまう。そのウケを、魚の通路につけて、そ
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