知ってるのかい。」
 チビは肩をすくめて笑った。
「あれは、気狂《きちがい》だよ、もう死んだよ。」
「気狂いだって。」
「君はあとさきのことを知らないから、分らないんだ。ばかな話さ。」
 その婆さんに、可愛いい孫娘が一人あった。四五歳の可愛いい盛りだ。それが孫だから、可愛いい以上だ。婆さんはそれをつれて、よく鳩と遊びに出て来た。その娘が、肺炎になって、病院で死んだ。婆さんほすっかりぼけてしまった。それから、一人であの神社に出て来るようになった。雨の日は、家でしくしく泣いている。天気になると、けろりとして、豆をもって鳩のところに遊びに来る。或る時、縁日の晩に、風呂敷いっぱい玩具を買いこんできた。花笄や、笛や、太鼓や、独楽《こま》や、花火や、木琴や、絵本や、積木なんか、いろいろなものを、座敷中にぶちまけたもんだから、家の者も、少しおかしいなと思いだした。
 それから少したってからだ。婆さんは病院にやっていった。丁度院長の回診の時だ。大勢いっしょにはいってる三等病室で、院長は医員や看護婦を随えて、一わたり診《み》てしまって、出て行こうとした。そこには、扉を背にして、一人の婆さんがつっ立ってい
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