が、空の星の数も自分の頭の毛の数も分かりませんでした。
 三日目の夜になると、彼はもうとても駄目だと思って、悲しそうに立ち上がって、ふらふらと池の縁までやって行き、思い切って真逆様《まっさかさま》に池の中へ飛び込みました。とたんに、空の星の数と自分の頭の毛の数とがはっきり分かりました。それは大変な数でした。もうその数を言うだけの隙《すき》がありませんでした。彼の身体《からだ》は底無しの池の中に、真逆様にずんずん沈んでゆきます。そして上の方に、池の面《おもて》や白い花や急に晴れた空や月の光などが、ぼんやり見えまして、花の間には精女達が歌い踊っています。彼はだんだん深く沈みながら、それらの景色をぼんやり眺めてるうちに、いつしか気が遠くなってしまいました。


     四

 人知れぬ時間が経ってから、彼はふと我に返りました。見ると、自分はいつのまにか、幾十年か前に出た家に戻っていて、寝床の上に寝ているのでした。髪の毛は真っ白になり、手足は痩《や》せ細《ほそ》り、腰は立たず、ひどく年をとって死にかかってるのでした。彼はびっくりして眼を見開きましたが、森の中のことを思い出すと、急いで星の数と
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