れを答えてみよ」
彼は困りました。いくら学者だからといって、空の星の数や自分の頭の毛の数は知りませんでした。彼が黙っていると、恐ろしい声はまた言いました。
「何一つ知らないことはないと言っておきながら、それくらいのことも知らないのだな。それでは三日の間《あいだ》待ってやるから、それまでに答えをせよ。もし三日の間に答えられなかったら、この池は底無しの池だから、この中に身を投げて死んでしまえ。はっきり答えられたら、お前の望み通り、自由自在に何にでも姿を変える術を教えてやる」
「承知しました」と彼は答えました。
三
それから彼は三日の間、空の星は幾つであるか、自分の頭の髪の毛は幾本であるか、一生懸命に考えました。しかしそんなことは、いくら考えても分かりようはありませんし、また一々数えることもできません。
あたりは深い森であり、前には底無しの池があり、池の縁には白い花が咲いています。けれどただそれきりで、もう空が曇って、日の光も月の光もささず、蝶や小鳥も飛んで来ず、精女達も出て来ませんでした。彼は池のほとりに坐って、両手を組み歯をくいしばって、三日の間一生懸命に考えました
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