ました。
 彼はあっと口と眼とを打ち開いたまま、そこにぼんやりつっ立っていました。
 しばらくすると、後ろの方の大きな木の茂みの中から、恐ろしい声が響きました。
「お前は何者だ」
 彼はびっくりして振り向きましたが、何の姿も見えないで、大木の枝葉が黒々と茂ってるばかりでした。がまたその中から、恐ろしい声が尋ねました。
「お前は何者だ。何しにここへ来たのか」
 そこで彼は、声の主はきっと森の王で精女達の主人だろうと思って、丁寧に答えました。
「私はペルシャ第一の学者で、天地の間に何一つ知らないことはないのですが、ただ魔法だけを知らないものですから、今度はそれを学ぼうと思って、魔法を知ってる人を方々《ほうぼう》尋ね歩いて、ここまでやって来た者でございます」
「そうか」と恐ろしい声は答えました。「ここは人間のやって来る所ではない、また魔法使いの住んでる場所でもない。しかしお前の熱心に免じて、魔法めいた術を少し教えてやってもよい。その代わりお前に一つ尋ねたいことがある。お前は天地の間に何一つ知らないことはないと言うが、それでは、空の星の数は幾つであるか、そしてお前の頭の髪の毛は幾本であるか、そ
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