た令嬢風の娘がいた。それが、変に彼の方へ身を寄せてくる。そして写真の代り目になると、プログラムを失くしたから借してくれと云って、それをきっかけに、何かと小声で耳元にちょいちょい話しかけてくる。彼は例の内気さから、初めは用心していたが、次第に引込まれて、一寸手を触れ合うようになった。それに自分で気がついた時は、もう終演際《はねぎわ》だった。さすがに彼も気味悪くなって、先に出てしまおうとした。すると、相手の令嬢も後からついて来た。そして何とはなしに、二人で連れ立って、あの池の縁から観音堂の方へぬけようとすると、そこの暗がりから、三人の不良少年が飛び出して来て、いきなり短刀をつきつけた。俺達が預かってる大事な令嬢を、何で誘惑しようとするんだと、声は低いが図太く脅かしつける。女は平気で笑っていた。彼はもう一縮みになってしまった。
「そうして、」と僕は云った、「まあ何ですね、有り金そっくり巻き上げられるか、叩きのめされるか、傷をつけられるか、何れただではすまない。」
「まあー、浜地さんが、そんな目にお逢いなすったんですか。」
だが、それは実は、浜地の話じゃなかった。僕が或る不良少年から聞いた話
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