不肖の兄
豊島与志雄

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《》:ルビ
(例)昨晩《ゆうべ》

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(例)※[#「魚+昜」、488−下−12]
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 敏子
 なぜ泣くんだ。何も泣くことはありゃしない。嬉しいのか、悲しいのか……いや兎に角、こんな時に泣く奴があるものか。
 僕も悪かった。がそりゃあ、皆が云う通りの不肖の兄、そういう僕なんだから、おかしな理屈だが、まあ名前に免じて許してくれよ。
 僕は知らなかったんだ、お前と浜地との間を……あの翌朝まで。薄々は分ってたようにも後では思えるが、全く、翌朝初めて母から聞いてはっきり分ったのだった。
 可笑しな朝だったよ。
 さすがに僕だって、前夜のことがぼんやり気にかかって、ぼんやりしてるだけにちょっと弱らされた。それで、十一時頃まで寝床の中に愚図ついていて、起き上るとすぐに、酒を飲むと云い出してみた。
「え、お酒。」
 言葉と一緒に息をつめて、さも呆れ返ったように母が見つめてきたので、僕は一寸首をすくめた
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