なんだ。
「いや、浜地も、今にそんな目に逢いそうな男ですぜ。それと云うのも、何だっけな、精神的に汚れてるから……ねえお母さん……。」
「止せよ。いい加減にしないか。」
食後の茶を飲みながら、煙草を吹かしていた兄は、本当に腹を立てたらしかった。
「止せと云うなあ、降参したしるしだな。へん、どーだい。」
「何だ、そのざまは。」
戦勝のしるしとして、なみなみとついだ杯を高く差上げ拍子に、手元が狂って膝にだらだらとこぼれた。その残りを一息に吸って、坐り直した。
「これで、証明がついたろう。」
「何の証明だ。」
「何の……ははあ、逃げ仕度か。卑怯だなあ。ほら、キリストが何とか云ったよ、女を見て心を動かす者は……ってな。ねえ、お母さん、お母さんは知ってるだろう。これを知らない者は……主ばかり……。」
いい気になったところを、兄からぱっと杯を叩き落された。
「何を。」
拳を固めて気張ってみたが、立てかけた膝がよろよろっとした。そこへ一つ、手首をぴしゃりとやられて、へたばりかけたとたんに、箸を取って投げつけてやった。
「馬鹿、馬鹿……やーいだ。」
ねじ伏せられたのが、変に手柔かなので、ひょい
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