「だって、お臍の上に味噌じゃあ……。」
照次がくくと笑い出したのが初りで、照代も僕も一緒に笑い出した。おっかさんだけは真顔を崩さなかった。その光景を、いつのまにかうっとり眼を開いて、美代子がぼんやり眺めていた。
照代はもう箪笥から、着物だの帯だのをやたらに取出していた。
「一寸……届けといたの。」とおっかさんが尋ねた。
「ええ。」
「あたし、留守してるわ。」と美代子が云った。
「ええ。おみやげを持ってきてあげるわ。」
そして、僕は照代とそこを出た。
タクシーの中で、照代はこんなことを云った。
「昨夜夜通しお酒の相手をして、それで冷えたのよ。寝てりゃじきになおるわ。あの通り元気ですもの。先刻だって髪をあげるって起き上ったくらいだから。そして、これで寝ついたら、ねえさん、あたしまた借金がふえるわって、そう云うのよ。可哀そうね。」
「うむ。」
僕は気乗りのしない返事をした。ちらちらと見える街路の灯が美しかった。
僕達は浅草に行って、何か食べて、活動か芝居を見るつもりだった。
「どこにしましょう。」
「どこでもいいや。君の行くところに黙ってついていくよ。」
「そうね、今日はあたしの
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