お味噌の灸を[#「灸を」は底本では「炙を」]すえると、じきになおってしまうんだがね。」
おっかさんはそんなことを云って、痛みの去った美代子に向って、熱くも何ともないからと説き勤めた。ばあやさんが小皿に漉味噌を持って来た。おっかさんはそれで、昔の二銭銅貨くらいの平ったい団子を拵え、それから艾《もぐさ》をまるめて小指の先くらいのものを幾つも拵えた。
「これをお臍の上にすえるんだよ。お味噌が熱くなるまで辛棒するんだよ。」
僕は襖を閉め切った。
味噌灸が[#「味噌灸が」は底本では「味噌炙が」]初まった。が途中で、美代子は泣き出した。
「いやよ、もうそんなものはいや。痛い……うーむ……痛いわ……冷くって。」
皆でそれを押えつけて、それからひっそりとなった。
暫くたった。ぱっと襖が開いた。照代がつっ立っていた。
「何をぼんやりしてるの。」
ちらと見ると、おっかさんは味噌の団子と艾の団子とを両手に持っていた。僕は不意に可笑しくなった。
「そりゃあ冷いでしょうな。お臍の上に味噌をのっけては。」
「ですからね、」とおっかさんは真顔だった、「熱くなるまで辛棒すれば、じきになおるんですがね。」
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