生活のうちに、掘り下げてみれば、どんな幸福が隠れてるか分ったものではない。
だが、俺は……。いいかい、この「俺は」がここでは大切なんだ。前に云ったろう、第二の父や母を空想したり感じたりする僕は……俺は……なんだよ。
その俺は、兄のような家庭がまた一つ生れようとしてるのを、お前の微笑のうちに見て取った。浜地は兄と相通ずる性格なんだ。彼は毎日勤勉に学校へ出かけるだろう。お前は忠実に家庭を守るだろう。そして、同じような日々のうちから、僅かな月給の余蓄と赤ん坊……。
もう云うのを止そう。お前の心に暗い影を投げてはいけないから。
で兎に角、本当のところを云えば、浜地とお前との結婚に、僕は賛成でも不賛成でもなかったまでだ。もっとどうにかした生き方はないものかと、そうお前のために希望しながらも、また一方から云えば、浜地との結婚は最も安全な途かも知れないとも思った。
が俺は……。いいかね、また俺は……なんだ。俺はお前を自分と同じ世界のものに、いつまでもしておきたかった。せめてお前だけは、拘束のない広々とした境地に置きたかった。それなのに、なぜ浜地と愛し合うようなことをしたんだ。つまらない。結
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