、強い愛を感じている。
 お前が知ってる通り、僕は母を大変愛している。ところが、どうかした心の持ちようで、もっと漠然とした然しもっと深い、第二の母の存在を想う時さえある。だから、父が亡くなって長年になる今、第二の父の存在を想うのも不思議ではないのだ。何という不幸な子だ。これで母もなくなって、幾年かたったならば、僕はもう生みの父母のことは忘れてしまって、別な広い父性や母性をばかり、自分の魂の父や母をばかり、想像したり思慕したりすることだろう。
 然しまた、そのために、僕はどれだけ自由に伸び伸びと生きてゆけることか。
 然しこんなことは、お前にはよく分るまいから、これ以上云うのは止そう。だが、そんな気持だから生活が放埓になるのだと云わるれば、僕は一言もない。但し自分では放埓だとも思ってやしないがね。
 それからもう一つ、僕はお前に詫びなければならないことがある。お前は、僕が故意に浜地を誹謗したと思って、嫌な気がするだろう。それはもっともだ。僕の云い方が悪かったのだ。僕はあんな云い方をして、浜地を傷つけるつもりでは少しもなかった。男の心って、それほど潔白なものではないということを、兄に向って
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