云いたかったのだ。僕が時々遊里に足を向けるからと云って、僕をさも汚れた者のように取扱い、風呂にも先に入れないで、而も冗談にもせよ口に出してまでそれを云う、そうした兄に対する反感から、たとえ身体は汚れていようとも、心は潔白だということを、間接に主張して見るつもりだった。それが、反感や酒の酔が手伝って、妙な風にこじれてしまった。浜地のことなんか実はどうでもよかったのだ。
 だから、翌朝になって、母から浜地のことだけを切り離して尋ねられると、僕は実際弱ってしまった。あれは兄をやっけるために浜地をだしに使ったんだとは、まさか云えないものだからね。
「わたしは、お前の昨夜の様子では、この話に反対だとしか思えませんよ。だからさ、反対なら反対でいいんですから、どういうところが不服なのか、はっきり云ってごらんなさいよ。」
 母はいやに落付払っていた。僕は少々面倒くさくなった。
「じゃあ、きっぱり云いましょう。僕は反対じゃありません、賛成です。」
 母は僕の顔をやはりじっと見ていた。
「それに違いなければ安心ですがね……。」そして母は一寸頬をゆるめた。「だけどよく考えてごらんなさい。この話にはお前が一番
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