へはいり込む隙間《すきま》もありません。
「弱ったな。どうしたら下水道へ戻ってゆけるかしら」
 思い迷ってふらふら歩いていると、酔っぱらいの男や商店の子僧《こぞう》などから、野良犬だといっておどかされたり追っぱらわれたりしますし、巡査《じゅんさ》ががちゃがちゃ剣を鳴らしてやって来たりするものですから、悪魔はすっかりしょげかえりました。そしてどこかもぐり込む隅《すみ》でもないかと、きょろきょろ探し廻ってるうちに、ある立派な帽子屋《ぼうしや》の店が閉め残されてるのを見つけました。店の中には誰もいないで、奥の方に番頭《ばんとう》が一人|居眠《いねむ》りをしています。
「しめたぞ。今夜はこの店の中に隠れるとしよう」
 そーっとはいり込んで、陳列棚《ちんれつだな》の上に飛び上がって、ひょいと帽子《ぼうし》に化《ば》けて素知《そし》らぬ顔をしていました。間もなく、奥の部屋から二三人の子僧《こぞう》が出て来て、表の戸締りをして、電気を消して、また引っ込んでいきました。
 悪魔《あくま》はほっと息をついて、やれやれ助かったと思うと、急に疲れが出て、帽子に化けたまま、ぐっすり眠ってしまいました。

  
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