とか。何と大勢の美しい人間共が通ってることか。何という賑やかさ華やかさだ。下水の掃除人がこの掃除口を閉め忘れてるのを幸いに、俺《おれ》も少しこの賑やかな通りを散歩してみるかな」
そしてこののん気な悪魔《あくま》は、下水道からひょいと飛び出して、小さな犬に化《ば》けて、街路樹《がいろじゅ》の影をうそうそと歩き出しました。昼のように明るい街路《まち》、美しい賑《にぎ》やかな人通り、宮殿のようにきらびやかな店先、うまそうな食物の匂《にお》い、楽しい音楽の響《ひび》き、そんなものに悪魔は気がぼーっとして、いつまでもうろついていました。
そのうちに夜はだんだんふけてきて、人通りも少なくなり、商店の窓もしめられ、賑やかだった街路が淋しくなり始めました。悪魔はふと気がついて、自分が飛び出したあの下水の掃除口のところへ、大急ぎに戻ってゆきました。ところが、いつのまにか掃除人が戻ってきたとみえて、大きな鉄の蓋《ふた》がかっちり閉め切られています。
「ほい、これはとんだことをした」
そして悪魔は、方々の掃除口を探して歩きましたが、どこもここもみな、頑丈《がんじょう》な鉄の蓋が閉め切ってあって、下水道
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