不思議な帽子
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)悪魔《あくま》が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|居眠《いねむ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「澄《す》ましてきって」はママ]いましたが、
−−

      一

 ある大都会の大通りの下の下水道に、悪魔《あくま》が一匹住んでいました。まっ暗な中でねずみやこうもりなんかと一緒に、下水の中の汚物《おぶつ》等をあさって暮らしていました。ところがある時、下水道の中に上の方から明るい光がさしていましたので、何だろうと思って寄ってゆくと、下水道の掃除口が半分ばかり開いているのです。悪魔は何の気もなくその掃除口につかまって、そっと外をのぞいてみて、びっくりしました。街中に明るく燈火《あかり》がともっていて、大勢《おおぜい》の人がぞろぞろ通っていて、おもしろい蓄音機《ちくおんき》の音までも聞こえています。
「ほほう、まっ暗な汚いこの下水道の上に、こんな立派な賑《にぎ》やかな通りがあろうとは、今まで夢にも知らなかった。何ときらきら光ってる燈火だこ
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