さい。ほんとは、あなたに買ってあげたのよ。」
「七つのお祝い?」
「そうですよ。そして、来年からは学校……。嬉しいでしょう。」
 喜久子はにっこり頷いて、果物を食べる。
「あ、お母ちゃん、お宮には、もういかなくてもいいの。」
「もういいことにしましょうよ。さっきお詣りはすましたんだから、二度お詣りするのも、おかしいでしょう。わたしが、思いちがいしていましたよ。」
「わかったわ。みんなが着ていたような、美しい着物がないからでしょう。」
「いいえ、着物なんかどうだって宜しいんです。お詣りを二度もするのは……。」
「慾ばりね。」
「そう、慾ばりですよ。」
「慾ばり、やめたあ。」
 歌うように言って喜久子は笑う。信子も笑う。
「今日は、あなたがちっとも慾ばらなかったから、御馳走してあげましょうね。」
「知ってるわ。鶏のお肉でしょう。」
「あら、どうして分ったの。」
「だって、さっき買ったんですもの。」
「あ、そうでしたね。お好きでしょう。」
「大好き。久しぶりだわ。お砂糖も使ってね。」
「ええ、沢山使ってあげますよ。早めに御飯にしましょうね。」
 信子は台所に立ってゆく。喜久子は古い絵本を取り
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