なたも、今日は仕事を休んでるじゃないか。それにしても、私たちの休養日のなんと貧しいことだろう。あなたは鶏肉を百匁買った。それが精一杯だったろう。それから果物を六個。私の方では、スルメとピーナツをかじり、酒を五合飲んでいる。このうちの一合分だけでも、あなたに上げることが出来たら、どんなに嬉しいか。一合とは限らない。一合の酒代で、鶏肉を買い足し、一合の酒代で、果物を買い足し、一合の酒代で、あの神社の綱張りの中へ……いや、神社の方はあれで結構だ。ただ、林檎と柿と蜜柑の二つずつは、あまり惨めすぎる。小さいのでよいとあなたは言った。でも恰好のよいのをとは、大出来だった。お仏壇のことも、私は咎めはすまい。
信子は家に帰って、果物をお盆にのせ、仏壇に供える。二階には他の一家族が同居しており、小さな家なので、六畳と四畳半の二室きりだが、仏壇だけは、小型にしても紫檀の立派なものだ。戦死した高須の位牌もその中にある。
信子はお茶をいれ、それから、いま供えたばかりの果物を仏壇からさげて、皮をむき、喜久子に食べさせる。
「もう食べてもいいの。」
「ええ。いちどお供えしておけば、それでいいんですから、食べな
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング