母親
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]
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――癖というのか、習慣というのか、へんなことが知らず識らずに身についてくる。吉岡にもそれがあった。十一月十五日、七・五・三の祝い日に、彼は炬燵開きをするのだった。炬燵開きといっても、大したことではない。独身の貧しい彼のことだ。押入の片隅から、古ぼけた炬燵と薄い掛布団とを取り出し、ぱっぱっと埃を払い、炭火を入れれば、それでよい。日当りのよい六畳の室だから、暖い日が続けば、炬燵は隅っこに押しやっておく。だが、最初の日だけは、炬燵の温度をしばらく楽しむのである。今年も、七・五・三の祝い日、彼は会社への出勤を休んで、炬燵開きをし、薄曇りの空を硝子戸ごしに眺めながら、とりとめもない夢想に耽った。五合の酒に、スルメとピーナツ、それだけで結構、午後の半日が楽しめるのである。火鉢に、酒の燗をする湯までわかしているので、室の中は暖い。だが、戸外の空
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