を!」
「なあに構うもんですか。あんなあやふやな奴は駄目ですよ。借りるならどんなことがあっても借りる、借りないなら断じて借りない、という風にはっきりしていなければいけません。あんな意志の弱い煮えきらない者をおかれても、碌なことはありません。」
 辰代は仕方なしに腰を下してみたが、それでも心が落付かなくて、また立上って奥の室へはいっていった。其処には澄子がくすくす笑っていた。それを此度は辰代の方が、台所へ引張っていった。
「何を笑ってるのですよ!……どうしましょう?」
「あの人にお室を貸したらいいじゃありませんか。」
「でもねえ、あんなでは……。」
「随分図々しい人だけれど、あの人のは、図々しさを通り越して滑稽だわ。」
 そして澄子はまたくすくす笑い出した。
「笑いごとではありませんよ、あんな人だから、またどんなことを仕出かすか分りはしません。何とか云って断ってしまう工夫はないでしょうかね。」
「大丈夫よ。あれで案外質朴な人かも知れないわ。もし変なことになったら、中村さんにでも伯父さんにでも云って逐い出してしまったらいいじゃありませんか。」
「それもそうですね。」
 そして辰代は恐る恐る
前へ 次へ
全84ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング