変な男
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)辰代《たつよ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)私|謝《あやま》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
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     一

 四月末の午後二時頃のこと、電車通りから二三町奥にはいった狭い横町の、二階と階下と同じような畳数がありそうな窮屈らしい家の前に、角帽を被った一人の学生が立止って、小林寓としてある古ぼけた表札を暫く眺めていたが、いきなりその格子戸に手をかけて、がらりと引開けるなり中にはいった。其処の土間から障子を隔てた、玄関兼茶の間といった四畳半の、長火鉢の前に坐っていた女主人の辰代《たつよ》が格子戸の音に振向きざま、中腰に二三歩して、片膝と片手とを畳につき、するりと障子を引開けてみた。が、互に見知らぬ顔だった。
「甚だ突然ですが、実は……。」
 出迎えが余り早かったので学生は一寸面喰った形で、そう云い出したまま後は口籠ったの
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