を、辰代は人馴れた調子で引取った。
「何か御用でございますか。」
誘われたのに元気づいてか、学生ははっきりした言葉使いで云い出した。
「私は帝大の文科に通っている、今井梯二という者です。お宅で室を貸して下さることを、友人に聞いて参ったのですが、貸して下さいませんでしょうか。」
「それでは、あの、どなたかお友達の方が……。」
「ええそうです。」と、今井は俄に早口になった。「友人の友人がお宅にお世話になっていましたそうで、大変親切にして頂いて、非常に感謝していました。それを聞きましたので、お室が一つ空いていたら、私に貸して頂きたいと思って、参ったのですが。」
「左様でございますか。宅では、どなたか知り合いの方の紹介があるお方だけに、お願いすることに致して居りますけれど、そういうわけでございましたら、室の都合さえつけば宜しいんでございますが、只今一寸……。」
「いえ紹介なら、すぐにでも貰ってきます。是非貸して頂きたいんです。」
「それでも、空いてるのは四畳半一つでございますし、今日の夕方までに返事をするから、それまで誰にも約束しないでくれと、頼んでおいでになった方もございますし、今すぐと申
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