、私が悪いと思われるんですね。」
「私は何も事情を知らないんですから、悪いとか善いとか、そんなことは分りませんが……、」そして中村は軽い微笑を浮べた、「ただ、あなたは少し……芝居気が多すぎるようですね。」
「え、芝居気が……。」
「と云っちゃ言葉が悪いか知れませんが、兎に角、不真面目さが……その態度にですね、態度に人を喰ったような不真面目さが少しあるので、それで人から悪く思われるのじゃないでしょうか。」
今井は一寸顔の色を変えた。そして暫く黙った後に、怒りを強いて押えつけたような調子で云った。
「あなたに聞いたのは私の間違いです。あなたは純真なものを、何でも滑稽化して見る人です。ここの小母《おば》さんのことだって、あなたは滑稽だと思っていられるんでしょう。」
中村は皮肉な苦笑を洩らした。
「ついでに、澄ちゃんのことも滑稽だと思ってるかも知れませんよ。」
今井はぎくりと眼を見開いた。そして相手を見据えながら云った。
「あなたとはもう口を利きません。」
「そうですか。御自由に……。」
中村がそう云ってるうちに、今井はもう立上って、二階の室に上っていった。その姿を見送って、中村はまた
前へ
次へ
全84ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング