と似通っていた。或は今井であるかも知れなかった。そして狼狽の余り、牛乳屋の払いはさせられてしまって、それから澄子へ相談してみた。
「まさか、あの弱虫の今井さんが!」と澄子は打消した。
「でもあれは、病気のせいではありませんか。家にいらした時からのことを考えてごらんなさい。」
 母にそう云われてみると、澄子も多少の疑惑を持ち初めた。
「ともかくも、家にどなたかお友達がいらしたという話だったから、その名前をそれとなく聞いてごらんなさいよ。」
「お母さんが聞いたらいいじゃないの。」
「いえ、私から聞くと角が立つから……。」
 それは当然もっと早く聞いてみるべきことでもあったし、また何かのついでに訳なく聞けることでもあったが、それを一の手掛りとして気にとめると、変にこだわってしまって、うっかり口に出せない事柄のように思い做された。そういう母の気持が、澄子へも伝わっていった。さも重大な問題ででもあるように、澄子は不承不承にその役目を引受けて、いい機会を窺ってみた。
 その機会がなかなか来なかった。辰代は幾度も催促した。それで澄子も遂に決心して、或る晩、二階の戸を閉めに行った時、今井から学校の試験
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