、次のような話をした。
やはり或る素人下宿屋で、大学生と称する学生を世話した所が、それが変な男で、毎日家にばかりごろごろしていて学校へ行く様子なんかはてんでなかった。訪ねてくる友人連がまた、みんな破落戸《ごろつき》みたいな者ばかりだった。そして、やれ洋食だの鶏《とり》だの牛肉だのと、さんざん贅沢なことを云っといて、月末には五円しか金を払わなかった。次の月もやはり五円だった。三ヶ月目には一文もないと云った。余りひどいので、しまいには主人も腹を立てて、内々調べてみると、なるほど大学に籍だけはあるが、学校に出てる様子は少しもなかった。そしてまた、方々の下宿屋を食いつめた後で、もう正式の下宿屋にはいられなくなってることも分った。それから主人はうろたえ出して、その学生の持ってる品物や書物などを――不思議に書物だけは可なり多く持っていたのを――無理に売払わせて、それでも不足の金はまあ諦めをつけて、とうとう逐い払ってしまった。それがつい二三ヶ月前のことである。
「そんなことがよくありますから、うっかりひっかかっちゃ大変ですぜ。」と牛乳屋は云った。
辰代は驚いてしまった。話の中の学生が、余りに今井
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