のことを尋ねられたのをきっかけに、何気なく尋ねてみた。
「あなたはちっとも学校にいらっしゃらなくて、ほんとにそれでいいの?」
「行ったってつまらないから行かないんです。」と今井は答えた。
「だって家にいらした方はみんな、真面目に学校に出ていらしたわ。……そして……あの……あなたの友達で家にいらしたというのは、何という方なの?」
 尋ねながら澄子は、背中が寒くなって顔を伏せってしまった。
「え、私の友人で……。」
「家にいらした方があると、そうあなたは云ってらしたでしょう。」
「あ、あれですか。あんなことはでたらめですよ。」
 澄子が喫驚して顔を挙げると、今井は真面目くさって云い出した。
「私はあの時、静かな宿を探すつもりでぶらついていますと、ふとこの家が眼についたのです。あの二階に置いて貰うといいなあと、二三度表を通りすぎてから、思いきってはいって来ました。全く偶然でした。然し今になってみると、偶然だとばかりは云えない気がします。自分の落付くべき所へ、自分で途を開いて、落付いてしまったような気がします。」
 澄子は言葉もなくて、今井の顔をぼんやり見つめていた。その時今井は、半分机により
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