いとこ》同士とか、そんな風な関係かと思いました。余り親しそうだから。」と今井は真面目に云った。
「そりゃあ私、中村さんを兄さんのような気がしてるわ。」と澄子は答えた。「だって、高等学校の時からもう六七年も家にいらっしゃるんですもの。私まだ十歳《とお》ばかりだったから、よく負《おぶ》さったりしてあげたわ。今でもどうかすると、僕の背中に乗っかったことがある癖に生意気だなんて、人を馬鹿にしてしまいなさることがあってよ。忌々しいから、そんな時には後で仕返しをしてやるわ。こないだなんか、ウェストミンスターの煙草の袋に、アンモニアを一雫垂らしといてやったの。そりゃあ可笑しかったわ。この煙草は臭い臭いって大騒ぎなんでしょう。そして私が放笑《ふきだ》してしまったものだから、とうとうばれちゃったの。でも平気よ。昔のことを云って人を馬鹿になさるから一寸おしっこをひっかけてやったんだわ、金口なんか吸って生意気だ、と云ってやると、いい気持だったわ。それでも後でお母さんから、嫌というほど叱られたの。」
「然しあなたは、何でも中村さんに相談なさるんでしょう。」
「ええ、時々……。でも何だか、本気に聞いて下さらない
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