はお喜びなさるでしょうよ。」と澄子は答えた。
それで辰代の決心はついた。病気のことには触れないようにして、例の不経済をたてに、もしよかったら実費で――全部で二十五円ばかりで――賄付にしてあげてもよいと、彼女は云い出してみた。
「結構です。」と今井は答えた。「どうかお願いします。」
そして翌日から、今井は辰代の拵えてくれる米の御飯を食べることになった。そのために、辰代の手がふさがっている時には御膳を運んだりなんかして、自然と澄子が二階に上ってゆくことも多くなった、そういう時今井は大抵机に両肱をついてぼんやりと、開け放した窓から空を眺めていた。
「空を見てると、一番心がしみじみ落付いてきます。」と彼は云った。
「だって、こんな曇った陰気な空じゃつまらないわ。」
「私はあの雲の上の、晴れた清らかな空を想像するんです。人間の世界から雲で距てられた、澄みきった清浄な空です。」
そして、その高い清浄な空を想像ししみじみと心が落付いてる今井は、澄子へ向って、彼女の身の上を尋ねたり、隣室の中村のことを尋ねたりした。殊に中村のことについては執拗だった。
「私はあなたが、中村さんと、親戚とか従兄妹《
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