、自分も一緒に進んでいって、ぱっと電燈のねじをひねった。今井はその俄の光に、眼をぱちぱちやっていた。それを見て、澄子はおどけた笑い声を立てた。
 そういう風な今井の様子を、辰代は呆れ返って眺めた。肩幅の広い骨組の頑丈な今井だけに、滑稽でもあれば痛々しくもあった。そして、これは多分肺病の初期とか神経衰弱とか、そういった風の病気に違いない、或はその両方かも知れない、というように彼女は考えた。
「あなたどこかお悪かございませんか。」と彼女は尋ねてみた。
「いえ別に何ともありません。」と今井は答えた。
 それでも辰代は肺病とか神経衰弱とかについて、それとなく中村に問いただして、結局今井の生活がいけないと結論した。朝一度御飯を食べるきりで、時々西洋料理や蒲焼などを取寄せはするものの、大抵はパンと牛乳とで過しているので、身体に精分がつくわけはない。中村のように一日病院につとめてるのなら格別、今井は家にばかりごろごろしてるので、もし家の者同様でよかったら、午も晩も賄をしてやってもよい、と彼女は考えた。
「ねえ、澄ちゃんどうでしょう?」と彼女は娘にも相談した。
「お母さんさえそれでよかったら、今井さん
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