と澄子は肩をそばめて見せた。「揺り返しは初めのよりひどいと云うから、此度は大変よ。そしたら私、今井さんを負《おぶ》って逃げてあげましょうか。」
 今井はなお遠くを聞き入りながら、火鉢の縁にしっかとつかまっていた。
 その二人の様子を見比べて、辰代は怪訝な気がした。これまで二三度地震はあったが、それも此度のより強くはなかったが、澄子こそ恐《こわ》がってはいたれ、今井が恐がったためしはなかった。それなのに此度に限って……。そしていろいろ考え合してみても、今井は病気に違いない、と辰代は考えた。
 それにしても変梃な病気だった。今井は普通に食も進み、別段痩せた模様もなく、ただ力が失せ気が弱くなり身体がなよなよとしてきただけで、それも一方から云えば、あの変人が普《なみ》の人間に近よってきただけで、何処といって変った様子は見えなかった。
「何処が悪いのかしら?」
 そう思って辰代は、なお今井の様子に眼をつけた。すると今井は、万事澄子にも及ばないほどの弱々しさになっていた。――庭の木戸の輪掛金に、きつい差金を少し強く差込まれたのが、どうしても取れないで、今井はまごまごしていた。それを澄子は見かねて、
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