ので、食べても少しも滋養にはなりません。その上可なり不消化です。麩よりも、御飯や鰹節をやった方がいいんです。」
「だって、御飯をやれば、眼の玉が飛び出すというじゃありませんか。」
「そんなことはありません。やりすぎて、消化が悪くなって、痩せるから飛び出すんです。」
そして毎日夕方、彼は水を半ば取代えてやった。大きなバケツに、水を半分ばかり汲んで、それを何度も運んだ。一杯汲んで運んだら早く済むのに、と澄子が云うと、重くって仕方がないと答えた。澄子は笑い出した。
「私水一杯ぐらい平気よ。」
そして彼女は、バケツに水をなみなみと汲んで、歯をくいしばりながら平気を装って、とっとと運んでいった。
水ばかりではなく、少し目方のある物に対すると、今井はいつも重いというのを口癖のようにした。それからまた、何をしてもすぐ疲れたと云った。
「今井さんの弱虫!」と澄子は笑った。
「そんなことを云うものではありません。」と辰代はたしなめた。「屹度どこか身体がお悪いんですよ。中村さんに聞いてみましょうか。なおるものなら早くなおしてあげた方がようござんすから。」
「いくら中村さんだって、診察してみなければ分
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