です。よろしくお願いします。もしお差支なかったら、夕方まで此処で待たして頂けませんでしょうか、もうじきですから。どんな学生か知りませんが、朝飯だけで承知するような者はなかなかいやしません。夕方またやって来るなんて云うのは、体《てい》のいい口実です。大抵来やしません。よし来たって、断るに極っています。私の方に貸して下さい。夕方まで来なかったら、それで宜しいんでしょう。よし来たって、私が談判してやります。では此処で待つことにしますから。」
そして彼は玄関の式台に腰を下してしまった。辰代は呆気にとられた風で、一寸言葉もなかったが、それなら兎も角も上って待っていて下さいと、ほんのお座なりに勧めてみた。
「そうですか、それじゃ失礼します。」
躊躇もせずにのこのこ上りこんで、入口に近い片隅に坐り、角帽を傍に引きつけて、きちんとかしこまった。その様子が何だか滑稽じみていたので、辰代は一寸待遇してやる気になった。そして座布団と茶と菓子とをすすめた。然し彼はそれらには手もつけなかった。
「どうぞお構いなく。」
そう云ったきりで、狭い庭の方をじっと眺めていて、一応室を見るようにと云われても、端坐した
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